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2011年3月9日水曜日

上海のだめ日本人

続前

まもなくしてそれが誤算だったことに気づく。遅刻・欠席の常習犯。中国人社員の日本人は勤勉でまじめ、というイメージを覆しただけではなく、先の四川大地震の寄付金をめぐっては「あの人、何とかならないのか」の直訴まで出る始末だった。
 「お金がないのに」としぶる彼女がひねり出したのは日本円にして100円にも及ばない金額。担当の中国人社員は目を丸くした。「たったこれだけ? 日本人の彼女が? 給料は我々以上なのに」……。
 中国の寄付金額は少なくとも給料に比例する。結婚式の祝儀も葬式の香典もそうだ。しかも、記名式とあればなおさら金額は熟慮を要する。中国の寄付のやり方がいいか悪いかは別として、彼女は「郷に入れば郷に従う」べきだった。相応額がわからなければ、総務や人事に相談するのが正解だっただろう。結果、「上海で働く日本人」にミソがついたのは言うまでもない。
 上海には日本人向けの特殊なポジションがある。学歴不問、専門能力不問、語学不問という「日本人職」だ。筆者も上海で勤務をしていた頃、人材紹介会社から3つの不問、つまり“3F”人材をたくさん紹介してもらった。これらの層は想像以上に厚く、「日本人」のみで採用が決まる上海には、常に絶え間なく半端な若者が流れ込んでいることがわかる。
 「日本人職」が求められるのは、1つには「日本人担当者なら安心する」という取引先ニーズがあるためだ。「中国人担当者しかいないの?日本人寄越してよ」、そんなリクエストはしょっちゅうで、日系企業は日本語が堪能な優秀な中国人より、多少、出来が悪くても日本人を信頼する。採用する日系企業にとっては、計算高い中国人よりも、思考パターンが類似している日本人が安心だ。しかし、ビザを発給する公安当局はその履歴書が腑に落ちない。「なんであんたの会社はこんな日本人を雇うわけ?」と嫌味を言われた日系企業もある。
 一方、“ダメ日本人”を雇った結果の難題もある。
 「なんで中国語も話せない日本人が8000元(約12万円)も給料をもらえるんですか」
 中国人と日本人が同居する企業ではしょっちゅうこんな議論が繰り返される。アタシの方が学歴もあるし、日本語、英語も堪能なのに……。納得できない優秀な人材はどんどん辞めていってしまう。一方、当の“ダメ日本人”は尻尾を巻いて帰国するどころか、コケむすまで中国に居座る。日本には就職先がないためだ。中国沿海部を上から下に、あるいは東南アジアを転々とする姿もある。中には帰国便の航空券代さえ捻出できない貧しい日本人もいる。

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